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令和3年9月の涌泉寺だより

迷惑な話

 迷惑と言う字を辞書で調べてみました。

 迷と言う字はコメにシンニュウです。米=行く先がたくさんある、の意。行く先がたくさんあってどう行けばいいのか迷う。

 惑と言う字は心を疑う、の意。

 迷惑と言う字は、他人様の言うことが多くて自分の心を疑う状態を言います。=他人のために嫌な目に遭う。と言う意味になります。

八月一日の産経抄に『岡野大嗣』と言う歌人が書いた一説を紹介したのが面白くて書かせてもらいました。

【並べるとひどい言葉に見えてくる。 頑張れ・笑え・負けるな・生きろ】

だそうです。

 八月から始まったオリンピック、九月初めまで続くパラリンピック。などの競技をなさる方たちは、それこそこの競技に向けて体の肉を削ぎ落とすような、毎日勝つためにだけ、過酷な練習をなさっています。

 観覧席で見ている我々は選手全員に、心ない言葉の、負けるな・頑張れ!敗者には、泣くな笑え・生きてもう一度戦え!

 競技に勝った選手の方たちは『皆さんの温かい声援のお陰で十二分の力が湧き出て戦うことが出来て、勝つことが出来ました』とおっしゃいます。一方敗者の方は泣いたりうなだれたりと大変です。

 私も、息子が、学生時代アメフトをしていたので家族で見に行きましたが、勝負事にはすぐ熱くなる方で、静かに見守ることが出来ません。

 大きな声で『走れ!何しとんねん!頑張らんかえ!よーしそこや押せ押せ!なんでタックルかわされへんのじゃー。馬鹿たれ!』

 もう大変です。横で娘と嫁が『お父さんもっと静かに見て!周りのお父さん方を見てご覧、お父さんはお下品よ!』と、私の手綱(たづな)を思いっきり引っ張ります。

 家に帰ってからが大変です。『お父さんを二度と試合には連れて行きません!』それからは、これ以上ハラハラ・ドキドキする男のゲームに、二度と応援には行かせてもらえませんでした。

 勝者にも敗者にも同じだけの賞賛の言葉を掛けるのがスポーツ観戦者の心得だということを教わりました。

 涌泉寺にはただいま大変な方が多くて、毎朝のお勤めに、大威徳明王さまを始め、荒行願満の鬼子母神さま、大黒さま、常冨さま、九識霊断のお守りの生霊神さま

涌泉寺だより R・三・⑨ 発行者 涌泉寺 院首 山口法博
等々、各守護神さまが大変です。

 脳梗塞で倒れられてビハビリ中のお方がお二人、難病に苦しんでおられる娘さん、登校拒否の小・中学生、このコロナの最中に会社を解雇になった人、年老いてから難病が発症して苦しんでいるお婆ちゃま、悪因縁・悪霊に悩まされているお方、子供が欲しいのに授からないご婦人、等々。

 私のことですから、お一人お一人に、各ご守護神にお頼みし一生懸命お願いをしています。

 月々の各ご守護神さまの年大祭にはそれらの方々には特別にお願いをしています。

 毎朝各ご守護神さまと『何故言うことを聞いてくれないんだー!』と泣きながら大声で怒鳴ることもしばしばです。

 そのあとでいつも言い過ぎましたと謝っています。

 ご守護神さまのお声がいつも聞こえます。『お前に言われなくても一生懸命頑張っている。わしら守護神と言う佛は、お前たちと同じに寿命があるんだ、わしらの仕事はただ一つ、わしらを頼る人間をどのようなことがあっても助けることなのだ。それができない時には死んだら地獄に真っ逆さまなんだ。お前たちの地獄と我々仏の地獄は比べ物にならないほど過酷なんだ。だから絶対地獄に落ちることなくお前たち人間をどのような事をしてでも助けなければならん!そしてお前たちを救った功徳で菩薩となって真の仏にならなくてはならないのだ!』

 住職を引退させていただいてから、法華経と言うお経を毎日、私の知恵無き頭で、お釈迦さまって本当にどのように私たちを思ってくださっているのかを知りたくて読ませていただいています。

 最近分かったことは、お釈迦さまと言うのは、命を有する全てのもの、一つ一つに寄り添ってくださっていることが分かってきました。

 そして、泣きたいときには一緒に泣き、悲しいときには一緒に悲しみ、嬉しいときには一緒に笑い、痛いときには一緒に痛みに耐え、とにかく一緒に死ぬまで付き合ってくださっておられます。

 『頑張れ・笑え・負けるな・生きろ』ってな、はた迷惑なことは一切おっしゃいません。

 人間はもとより、犬猫などの愛玩動物を始め如何なる動物にも、木や草花などどんな植物にでも、一つ一つに寄り添って一緒に生きて下さっておられます。

 今は亡きご老僧がいつも法華経のご法話をなさる時に、泣きながらご法話をなさるのは、このことだったのかと改めて、法華経の有難さが理解出来つつあります。

みんな、

横を見てご覧、いつでも死ぬまで、

ズ~ッと、

お釈迦さまが横に寄り添っていて

くださいます。

 

涌 泉 寺

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